Blog

心理的安全性をめぐる対話の時間

会議で発言しようとしても、つい空気を読んでしまう。
「これ言っていいのかな」と考えるうちに、話題が次に進んでしまう——。

そんな経験はありませんか?
それは“心理的安全性”が少し揺らいでいるサインかもしれません。

日々の対話を少し変えるだけで、職場の空気も、人との関係も、少しずつやわらかくなっていく。
今回は、DEI推進チームの皆さまと共に、心理的安全性”を考えました。
さすがDEIチームというべき関心の高さと理解度で、
「現場でどう実践するか」という視点から活発なディスカッションが展開されました。

自然に生まれた問いは、どれも本質的でした。
「同じ言葉でも受け入れられる人と、そうでない人がいるのはどうすればよいのか?」
「仲が良いだけじゃダメですよね? 緊張って、少しはあった方がいいですよね?」
「そもそも、人に興味がない人に対しては、どうすればいいのでしょうか?」

参加者が互いに呼応し、一つひとつの言葉の意味を丁寧に咀嚼していく…
単なる知識共有ではなく、「自分の言葉で考える」時間になりました。


現場でのリアルな課題

ディスカッションでは、現場の声も率直に共有されました。

「部長が話していると、自分のような立場の者は発言してはいけないと感じてしまう」
「知らない用語があっても、会話を途切れさせては申し訳ないと思うと質問できない」
「部署異動したばかりのとき、宇宙語に聞こえるくらいわからなかったが質問できなかった」

ここから見えるのは「主体性がない」のではなく、
心理的安全性が不十分なために主体性を発揮しづらい という構造です。
実際には、質問すれば応えてくださる環境だったということもあったようですが、
何となく不安で…と見えない壁が存在するように感じてしまうことってありますよね。

知的水準の高い職場ならではの課題として、次のような声も挙がりました。
「周囲の理解が早すぎて、置いていかれる気がする」
「発言すると『で?』『質問の意味がわからない』と言われることがある」
(↑その場で、踵を返したくなるワードですよね(涙))

そんな中で、ある参加者がこう発言しました。
「“質問の意味がわからない”ではなく、“もう少し意図を教えてもらってもいい?”
と言い換えれば、受け取られ方が違うかもしれませんね。」
この一言が象徴しているように、
心理的安全性は“優しさ”ではなく、“伝え方を工夫する力”でもあるのだと思います。


「安心」と「緊張」は共存できる

ある参加者からのご質問
「緊張って、少しはあった方がいいですよね?」
おっしゃる通りだと思います!
心理的安全性とは、“ぬるま湯の安心”ではなく、挑戦を支える安心
ビクビクする緊張ではなく、「やってみよう」という前向きな緊張感があるからこそ、成長は生まれます。


“感謝”は関心を取り戻す灯火

心理的安全性が揺らぐ背景には、職場内での理解スピードや表現スタイルの違いがあります。
たとえば、周囲の理解が早い環境では、「自分だけ遅れている」と感じて発言を控えてしまうことがあります。
一方で、早く理解した側が無意識のうちに“急かす言葉”や“刺す表現”を使ってしまうこともあります。

このような小さなすれ違いが重なると、次第に「話しづらさ」や「距離感」として表面化していきます。
誰も悪気がないのに、気づけば会議や日常の会話の中で、
“何となく言いにくい空気”が漂うようになるのです。

では、なぜこうした状況が生まれるのでしょうか。
それは、知識や意識の差というよりも、
「相手の立場や感情を想像する余裕のなさ」から生じます。
忙しさの中で心の余白がなくなり、つい自分の理解スピードを基準にしてしまう。
その結果、関係のズレが積み重なっていくのです。

この小さなズレをそのままにせず、気づいたときに丁寧に修復すること──
それこそが、心理的安全性を育む第一歩です。

さらに、他者への関心が薄いと感じる背景には、もう一つの要因があります。
それは、「どう関わればいいか分からない」「相手を傷つけたくない」といった不安に加え、
時に自信過剰や効率偏重から、相手を下に見てしまう姿勢が混ざること。
こうした無意識の構造が、関係をぎこちなくしてしまうのです。

しかし、ここで注意したいのは、心理的安全性を「絶対の正しさ」として押しつけないことです。
善意のつもりで“心理的安全を守らねば”と力むほど、
今度は同調圧力を生み、自由な意見交換を阻んでしまうこともあります。

では、どうすればよいのでしょうか。
今回の研修では、その“糸口”として感謝をテーマに取り上げました。

「まずは小さなありがとうから」。
それが、互いの心を少しずつほどいていく第一歩です。

実際のワークでは、参加者の皆さまが
 感謝をされた喜び
 感謝を伝えた喜び
を体感されました。

感謝が交わされる瞬間、心の奥に小さな灯がともり、
自分の存在意義が温まり、やがて他者への関心や共感が戻ってきます。
それは少しずつかもしれませんが、確実に、
人と人との関係をあたため、組織の文化を変えていく力になるのだと、私は確信しています。


明日からできる、小さな実践

・定期的なランチ会で話しやすい雰囲気をつくる
・ゲームを通して仕事以外の価値観を共有する
・ニッチな趣味でつながる喜びから、相互理解を広げる

どれも、関係の“質”を豊かにする実践。
形式よりも、共に過ごす時間の質が鍵です。


「提供するものが美味しくなる」職場へ

発表してくださった内容を受けて、
私が「御社の商品を頂く際には、きっとこのことを思い返すと思います…」
とお伝えしたところ、

「それに関わる人たちの雰囲気が良くなれば
(商品として提供する)〇〇〇も、さらに美味しくなると思うので、
味で感じてください!」

とおっしゃってくださいました。

この一言に、心理的安全性の本質が映ります。
職場の関係性は、最終的に 仕事の成果や提供価値 に結びつきます。

人が笑顔で働ける環境は、商品にも、サービスにも、社会にも伝わっていく。
そんな確信を、皆さまの言葉からいただきました。


最後に、今回ご参加くださった皆さまへ

どの瞬間も、誰かの発言を丁寧に受け止め、
時にうなずき、時に笑いながら対話を紡いでくださったお姿がとても印象的でした。

心理的安全性というテーマは、職場の課題を直視する分、
どうしても「重く」「難しい」と感じられることがあります。
けれど、この研修では、皆さまのまっすぐな眼差しと温かな対話によって、
その空気が、安心と希望に満ちた場に変わっていきました。

「商品の味も、それに関わる人たちの雰囲気が良くなれば、きっともっと美味しくなる」
このお言葉を頂いたとき、胸の奥が熱くなりました。

人が変われば、空気が変わり、そしてその先の“成果”までも変わっていく。
その原点にあるのは、やはり「人を想う心」なのだと、改めて感じます。

私自身、この日の学びと感謝を胸に、
これからも“人と組織の関係をあたためる研修”を続けていきたいと思います。

参加してくださった皆さま、
本当にありがとうございました。


※本記事は、実際の研修内容をもとにした講師個人の振り返り記録です。
参加者・企業名・固有情報は伏せ、守秘義務に配慮した内容で構成しています。


関連記事一覧