その“諦め”が、誰かを傷つけている──リーダーが判断を手放したときに起こること
以前、経営者の方と会話をしていたときのこと。
社員の方々からの人間関係に関する不満やストレスを耳にしていたこともあり、社内の雰囲気について尋ねると、
返ってきたのは、こんな言葉でした。
「社員の人間関係には、あまり関わってないんですよ。
人はそれぞれ良いところも悪いところもあるから、まぁ仕方ないですよね。」
話を伺うと、精力的に社員にヒアリングをしたり、モチベーションを上げるためにどうすればよいかなど尽力された結果、思うようにいかないと諦めるしかなく、この結論に至ったようでした。
孤軍奮闘で本当に頑張ってこられた事と思いますし、ご本人の傷つきもあったことを知り胸が痛みました。
お辛かったことと思います。
ただ、この時、私はこうも思ってしまいました。
“この会社の人たちは、今、どんな気持ちで働いているんだろう”と。
この価値観となってしまった結果、
人間関係で悩んでいる場面では、
「それは当人たちで解決すればいいことで社長が口出す話じゃない」
もう何年も社員を昇格させていない(本人たちは望んでいる)ことに関しては、
「昇格したってやることは同じなんだから、意味ないでしょ」と一蹴。
この後、数回のコーチングで対話を続け、どちらにも対応してくださいました。
その結果、社員の方から
「昇進すれば外部とのやりとりがしやすくなった」
「評価されていると感じられるだけで、モチベーションが上がった」
という声を聞きました。
■ 判断しない、という“判断”の重さ
リーダーには、「決める」という役割があります。
でもときに、
“決めない”“関わらない”“見て見ぬふりをする”という「判断」をしてしまうことがある。
それは表向きには「放任」「自主性の尊重」に見えるかもしれませんが、
実際には、「無関心」「諦め」と受け取られることもあります。
そして、その“見送られた判断”の影には、
声をあげる勇気を持った誰かの、切実な想いが置き去りになっているのかもしれません。
■ リーダーの役割は、全員を救うことではない
とはいえ、すべての声に応えることはできません。
全員を満足させる魔法のような決断も存在しない。
でも、だからこそ大切なのは、
「見ている」「考えている」「応えようとしている」という姿勢です。
たとえ最終的に変えられなくても、
そこに誠意があれば、信頼は生まれる。
逆に、“諦め”の空気が伝われば、人は静かに離れていきます。
■ 諦めたくなるほど悩んだあなたへ
そこまでに至るには相応の経緯があったかこと、想像に難くありません。
ただ、もし、誰かを“もう仕方ない”と手放してしまった自分に気づいたとき。
それは「まだ関わりたい」と思っている証かもしれません。
それならば、もう一度、問い直してみませんか?
・自分が守りたかったものは何だったのか
・誰に、どんな環境をつくってあげたかったのか
・その判断の先に、どんな未来をつくりたかったのか
リーダーが判断を手放すと、組織は静かに停滞します。
でも、もう一度決断する覚悟を持ったとき、チームは新しく動き出せる。
“諦めないこと”こそが、リーダーシップのはじまりなのかもしれません。